ambitect
貯める・探す・描く・つくる・暮らす
2014年に設立されたデザインディレクション『ambitect』。建築に関わる5つの力(貯める・探す・描く・つくる・暮らす)をベースとした、デザインコンサルタントを行う。SNSにて暮らしの情報を発信し、2023年より『暮らしの窓口』を開設。

都心で狭小住宅|暮らしのミニマル化と間取りの効率化が最優先

どこまで
暮らしを
小さくできるか

暮らしのサイズ。1R、1LDK、2LDK、3LDK…
広くなるほど室の質を保つのも難しくなる。

手に届く範囲の暮らしを豊かにできれば良い。けれど人間、欲には勝てない。やはり広ければ広いほど良いという考えが根強く残る。それは致し方がないこと。理性的には小さくてもよいのだけど、どこか物足りなさを感じる。どこまで暮らしを小さくできるかは、各々の価値観によるところが大きい。

建築面積:8坪(26.4㎡)、10坪(33.0㎡)、12坪(39.6㎡)北鎌倉の家、13坪(42.9㎡)
これらはワンフロア(1階だけ)あたりの最大面積で、12坪あれば比較的十分な広さだと実感しています。

首都圏、東京都内に数多く残っている狭小地。極小地の広さでもっとも狭く、よく目にするのは30㎡前後(価格が比較的安い)。実際に家を建てるとなると7〜8坪程度。1Kのワンルームマンション(25㎡前後が多い)に階段が付くので、広くないことはすぐに想像できる。

階数を増やすことも場合によっては可能ですが、階段が多くなることは、年齢を重ねることを考えると、なるべく避けた方が無難です。

今までに実際にいわゆる狭小住宅、極小住宅を数多く見学してきました。とても細やかな設計をされていて、参考になることばかりでしたが、見学後の感想は「よく住めるな」と感心というか、感嘆というか。色々な感情が芽生えたことを記憶しています。

自らの夢である自邸を計画する上で、最初は狭小住宅へのチャレンジも考えました。考えたというか、実際に土地探しや工務店のやりとりなどを通じて実践したのですが、当時の経済力(今も当然無理)では到底実現できるものではありませんでした。

そこに自分が住めるかと問われた時、心の底から「イエス」が言えなかったのも理由の一つ。いまだに諦めた訳ではないですが、こどものことなどを考えていたりしていたので、狭すぎる家は現実的ではないと判断しました。

駅近になると土地だけでも相応の資金が必要となりますが、普通よりちょっとだけ小さな家に住む覚悟さえあれば、都内近郊の「準都心」であれば、実現可能なことに気が付きました。
利便性を考えて、首都圏の都内へ電車で1時間くらいまでなら大丈夫だろう。もし本当に暮らすと仮定し、建築を考える際に小さな空間であることの優位性はなにか?を狭小住宅を見学した時を思い返しながら、自分なりに考えておくことにしました。

「小さいことは豊かなこと」
小さい家のメリットは、日々のお掃除や中長期のメンテナンスなど、あらゆる重荷を、和らげてくれます。イニシャルコストとして建築費も抑えられますし、空調設備や電気代、修繕費用などといったランニングコストも安くできます。浮いたお金を、床壁天井などの材料をアップグレードし、良質な素材を使うこともできます。

北鎌倉の家では、小さいことのメリットを最大限に活かして、計画を進めました。工事費も抑えられるし、工事期間も短くなります。なんといっても、乏しい資金であっても、ひとつの空間をこだわり抜いて、集中して資金投下できるのも、狭小住宅のおすすめポイントです。

しかし、小さければなんでも、良いんだ。という訳ではありません。9坪ハウスが8坪に、そして7坪になったからといってすごい訳ではありません。もちろん面積が減った分は費用は抑えられますが、それが目的になってはならないと思います。
現実的には、それぞれのライフスタイル(家族構成や将来対応など)や資金計画が考慮されるので、その中での最適解であれば十分だと思います。暮らしの質にも関わることなので、コストカットは程々が良いと思います。

「東京に住むことは、質の高い生活体験を得ることである」
都内に住居を構えることの最大のメリットは、日本中や世界から集まってくる「美味しいもの、美しいもの、楽しいこと、美しい音」など生活体験におけるグレードを高めることだと思います。しかも、それらが徒歩圏にあったり、電車で数分の場所で体験することができる。

そして、もしそれが評判のレストランであれば常連としてのサービスを受けることができるかもしれない。

自らが料理が得意であったり、サービスを受ける必要を感じていない方。例えば、主に自ら食事を作り、自宅で食事をするのであれば、都心への近さは不要であるのかもしれないですが、多くの方にとってメリットだと思います。

また、経済圏に近くに住むことで
移動時間が短縮されるため、生活体験の時間をより長く確保することもできます。

「勤務地に近い方が良い」という希望で
東京都内住まいを求める方がいますが

実は距離が近いということは、時間を得るということであり

その時間が、付加価値のある生活体験になることを認識すると、良い気がします。

暮らしを小さくするために、断捨離やシェアサービスを活用することもひとつの手。ただ、サブスクリプションというのは、結局のところ自分で所有していないので、いつか返さないといけないという、締め切りを頭の片隅に置いておく必要があります。
できれば頭の中は常にからっぽの状態にしていた方が、健康的だと思っているので、借りるという行為はできれば避けたいです。なるべく現物を所有して、不要なものはしっかり手放す。

「小さい暮らし」のキーポイントは家の中に置いておきたいもの(借りたくないもの)は、しっかり整理整頓・保管すること。北鎌倉の家を設計した時「暮らしはなるべく小さく、けれど収納は決して妥協しない」といった設計思想が根底にあり、デッドスペースを立体的にうまく利用したり、小屋裏のスペースの使い勝手に考慮したり、狭小住宅だけれど収納の量はかなり余裕があります。

暮らしのミニマル化と間取りの効率化は最優先ではあるものの、暮らしを小さくするために、余白をなるべく持つ。相反する考えかもしれませんが、余白を持つことで、その余白のサイズを再設計・再定義することで、真に小さな暮らしが実現できるのだと思います。

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