madorismの間取りをつくる建築家
原宏佑(はらこうすけ)
鎌倉市在住の建築家。

関東近辺で約3年の土地探しを経て、30代で北鎌倉に自邸を建築。家づくりを通して、物件探しに大ハマり、今でも鎌倉の物件情報に目がない。「鎌倉で次住むならここが一番だ!」を探し続けて、さすがに2軒目は自身では難しいので、誰かに実現してほしいと心から思い、間取りにストーリーを込めて日々作成している。

あえて小さな家を選ぶことで得られるコト

あえて小さな家に住むことの最大のメリットは、あらゆる生活のシーンが手のひらサイズで手の届く範囲にあることかもしれない。

ここでいう小さな家とは、単に小さくて狭い家のことではない。それぞれが思い描く小さな家のサイズは異なるし、単に何坪だから小さいという話でもない。

いかにシンプルに、コンパクトに生活を送ることができるか。

それぞれの生活に見合った大きさは自ずと決まってくるし、案外スペースが必要なのかもしれないし、よくよく考えてみると小さく済むのかもしれない。小さな家に住もうとすることは生活をシンプルに見直すことからすでに始まっている。

無理に無駄をなくすとか、こうあるべきだといったことに縛られることは、不必要だし、はじめからすべてを真剣に考える必要もない。

まずは小さなことから始めていきたい。

整理するプロセスを楽しみ、重要な事に気付く機会を得られるとこれからどう過ごしたいかというテーマのようなものも見つけられるだろうし、本当に豊かな時間をどう過ごすかということにフォーカスできるのではないかと思う。

基本的にはそのために必要な広さは問わないし、小さな家の基準はない。

それは大きな家では得ることが難しいのことではないし、大きな家でしか成立しないこともある。

それぞれの身の丈に合った「小さな家」が必ずあるはずであるし、そのことに気づいた時、豊かさとは何かに気付くことができるはずである。

01.経済

財政危機の余波や、ユーロ危機が世界的に蔓延し、人々の財産が大きく変動する可能性がある。実際に、大金を失った人々が続出し、持ち家が差し押さえられることも。先行きの見えない不安から人々は、それぞれの生活や将来について、改めて見直すことが必要に。
長い年月かけて積み上げてきた地位が崩壊するとなれば、人々は真剣にこの状況について考えなければいけないだろう。世界規模の財政危機以来、経済は大きく低迷し、以前にも増して公的債務と民間負債は吊り上がり、ほぼ2倍近くにまで達している。
世界的大都市のシドニー、メルボルン、トロント、バンクーバー、オークランド、ロンドン、そしてニューヨークにおける戸建て住宅およびマンションの平均価格は、約1,000万ドル(約12億円)にまで高騰する勢い。都心部から遠く離れた郊外でさえ、およそ50万ドル(約6,220万円)を優に超える価格。どんなにいい仕事に就いていようと、ローン完済までに最低20年〜40年はかかる計算だ
狭小住宅での生活を進める「The Tiny Life」の調査によると、アメリカで家を所有する人の割合を示している。その結果、およそ21%が30歳以下と、30歳〜40歳代で同数。ほか18%が40歳〜50歳代、そして大半を占めるのが50歳以上(約38%)ということが判明した。

02.環境面

人間が生活していく上で必要とする土地の大きさ(環境フットプリント)を、一人一人が意識するようになったこともあり、狭小住宅は、今後もメディアを通じて広まっていくことだろう。
また、エネルギー価格の高騰は光熱費をも逼迫することが予想され、人々はもはや、大きな家を求めなくなる時代がやってくるはずだ。タイニーハウスにかかる維持費や光熱費は、言わずもがな少なく済む。当然、建設コストも同じことが言える。

03.簡略化

生活を簡略化することで、景気後退の荒波を乗り越えるためのいいスタートを切ることができるはず。小さな家で暮らし、負債を減らすことで、生活を維持することが容易になるからだ。調査によると、シンプルに浪費を減らすことで、生活は向上し、幸せで充実したものになるという明るい見通しもある。
そればかりか、モノを減らすことで部屋がスッキリするだけでなく、心にもゆとりが生まれる効果も期待できる。限られたスペースしかないことで、部屋の中を最小限のモノだけにせざるを得なくなる。こうした、生活全般を簡略化されることで、衣類や家電、家具にかける金額を減らし、ひいては精神的負担も大幅にカットする結果が期待できる。あなたが所有するモノは、必要不可欠であり、必要最低限なもののみに。また、タイニーハウスの利点として、トレーラーハウスのような自動車での牽引が可能なため、旅行や引っ越しなどの移動も楽にできる。

04.余裕

1950年代、アメリカ西部では、次々と物件が増えはじめ、住居を構える人々が増えていった。広大な土地に合わせて家屋も大きいものが主流だった。アメリカやOECD(経済開発協力機構)諸国では戦後、経済が急速に発展したため、都市を郊外へと拡大していく動きが促進された。
さらには、原油を安価で仕入れることも可能だったため、郊外化は急速に広まり、消費者の動向は大きく変化することに。ベビーブーム世代は、10年前にはなかった商品、もしくは高価すぎて変えなかったモノの工業生産高が増大したため、消費も盛んだったようだ。こうして、郊外で大きな家に住むことが、ひとつのステータスシンボルとなっていったようだ。
だが、広い家のスペースを埋めるため、多くの家具が必要。アメリカ人の毎月の収入のおよそ30%が、借金やローン返済に充てられているという。オーストラリアやカナダでは、その割合は40%にも及ぶとか。
スモールハウスムーブメントに対して、なぜ反対意見が出ないかについては、こうした財政面からも納得がいく。つまり、家のサイズを小さくするだけで、生活費の負担からも解放されるのだ。

05.コミュニティー

1950年以降、急激に郊外化が進み、通勤にかかる時間は長くなった。さらに、経済発展とともに海外旅行を楽しむ人々も増え、近隣住民とのネットワークや地域コミュニティーの絆は、年々薄れていった。それは、都心部に住む人々と郊外に住む人々の繋がりの薄れでもあった。活気あるコミュニティーが孤立し、コミュニティー自体の価値も崩壊することに。
人々は、莫大な住宅ローンを払うのに必死、それなのに贅沢な暮らしを求めるがため、何が大切かを忘れてしまったのかもしれない。それが、コミュニティーであり、家族であり、そして人間関係までもが。だが現在、狭小スペースのコミュニティーは、どんどん活気づいてきている。このムーブメントにまだ経験が浅い人は、建築規制や計画、運搬などの未知の世界を切り開くために、周りの人の協力が必要となるから。つまり、タイニーハウス・ムーブメントは、人々が失ったはずのコミュニティーを再び取り戻そうとしている。これも、魅力の一つだと言えよう。

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