土地12坪・建物7坪ハウス|数寄方丈の家|都内狭小地におけるミニマルなワンルーム空間の構想|鴨長明のような方丈庵の暮らし

現代の住宅はあまりにも大きくなりすぎている。過度な設備に大量のモノ。欲しいものを手に入れても、どこか心が満たされない。今回は東京都内における狭小地におけるミニマルなワンルーム空間を構想してみました。土地12坪・建物7坪ハウス、数寄方丈の家というコンセプトで考えていきたいと思います。依頼者にとっては、老後を見据えた終の住処。
今回相談に来られた方の経緯としては、若い頃に寝る間も惜しまず働き詰めであったことから、定年を迎える前に早期退職。退職後は今までと全く異なる分野の経験を意識して選択。高齢者や、若者、幼児と関わることを通じて、多様な価値観を知り、自分自身の「暮らし」について改めて考え直す機会があったとのこと。話をお伺いすればするほど、挑戦的な野心をお持ちの方でした。
今までの住まいから飛び出して、自らの理想の暮らしを見つけたい。そんな一心で、賃貸で家を転々と住み替えている中で、トイレや風呂も共同の浴場付きマンションでの暮らしがきっかけとなり、今では都内の便利な立地に1Kマンションでの身軽な暮らしに辿り着く。当初、1K(新築)は内装も綺麗で自分にとって申し分ない暮らしに思えたものの、徐々に余分な設えが多いことに気付き始め、もっと無駄を削ぎ落として暮らしたいと感じるようになっていった。
賃貸での暮らしは、あくまで借り物で。いつか返さないといけない。その心のどこかにある重荷を下ろしたい。
現状の賃貸では叶えることのできない、自分の理想とする「空間」で暮らしてみたい。という衝動に駆られ、自ら理想の土地を選び、家を建てたいと考えるようになったそうです。
色々な物件(マンションや建売戸建)を見て回る中、過度な装飾や設備は不要である。と確信を持って考えられるようになり、極端な話、鴨長明の方丈記(方丈庵)で表現されるミニマルな暮らしをしたいと考えるようになったそうです。
そんな中で、弊社に興味を持っていただいたのは、自宅が位置している北鎌倉の山ノ内というエリアに前々から興味があったとのこと。北鎌倉の家のミニマルな空間をご覧いただき、今後の建築の参考にしていただければ幸いと思っています。そして、建築イメージに関するお話をたくさんお伺いできたので、僭越ながらラフプランを考えたいと思います。
今回は鴨長明の方丈記に描写されている方丈庵になぞらえて、数寄屋の空間性を都内の狭小空間に落とし込むということを主題として、「数寄方丈の家」を考えていきます。
土地の条件としては都内の狭小地(12坪程度)で建蔽率60%。建築面積約7坪。2階は賃貸として貸出す想定ですが、現段階では1階のみ考えていきます。
小さくても豊かな住まいの原型|方丈庵(方丈記、鴨長明著)
方丈庵とは・・・鴨長明著の方丈記に記載のある、解体可能で移動可能な仮設建築物(モビリティハウス)のこと。広さは3m四方程度で四畳半くらい。平面構成は大きく捉えると3分割されており「寝る・祈る・奏でる」といった別々の役割を持った空間が設られている。
また外には縁側や庇のある空間などもあり、日本的な曖昧な空間が見て取れます。そして数種類の建具を使い分けることにより、雨風を防ぎながらも、通風を確保するなど、より機能的で実用的な暮らしが可能になっていることがわかります。
方丈庵の現存する河合神社は京都の下鴨神社(糺の森)にあり、通っていた大学の近くだったこともあり、学生の頃からミニマルな建築として認識してはいましたが、そんなおよそ四畳半の小さな住まいに心を寄せる方がいるとは思ってはいなかったことです。
学生の頃に隈研吾氏の「800年後の方丈庵」のイベントに参加したことも懐かしい。
たとえ小さくても、様々なアクティビティを支える豊かな空間性を享受する。これが方丈庵の設計意図の根底にあり、今回は小さなワンルームでも、様々な使い方に対応できる空間を「現代の暮らし」の中で考えてみたいと思います。
四畳半の板間、土間の空間を外へ延長し、多様性を受け入れる空間を実現

今回の間取り:ワンルームの中央に小上がりとして四畳半の暮らしのための空間をベースにして、考えていくことにしました。周囲は土間になっているイメージです。
土間は建物の外と関係をもつための空間で、多様性を受け入れます。家の中の半分以上が土間という特殊な構成を取ることで、内だけでは得ることのできない、外の広がりを感じることができるようになります。
間取りの見方・・・水回りとしてはシャワールーム(三角の記号△)、トイレ(楕円形の記号○)、そして洗濯機置場(四角にバツ、もうひとつあるのは冷蔵庫ですが、途中から冷蔵庫置き場はキッチン下を想定)、コンパクトなキッチン。
居住空間を最大化するために、できるだけ水回り関係を寄せていくことを検討しましたが、想定よりも面積が大きくなってしまうため、一旦検討を中止。
板間は三畳に絞り、無駄を削ぎ落としていく

中段右側:7坪の中で四畳半は大きすぎると感じ、3畳にしました(主に寝るためのスペースなので必要十分という話もいただいていたので、いったんこの広さで設定)
道路側の広くとった土間部分は普段はオープンにしたい。とのことなのでガラス張り(引戸にして、道路側とフラットにつながる)、来客用のテーブルを置くと、街と連続したオープンスペースの完成です。ちょっとした打ち合わせや作業ができる空間になります。
土間縁なので、曖昧の十型でいうところの「7_取込」を意識した空間を想定。
建物のアプローチは脇から入っていく形。ちょうど水回りが並んでいる中央から中に入ります。(中は土間のイメージ)
イメージパース・間取り

上段のパース:道路側から室内を見てるイメージ。障子戸で仕切るか仕切らないか。スケッチを書いているうちに、小上がりの奥に造作テーブルあれば、小上がりを椅子使いして丁度良いなと思い、中段パースで追加しました。
中段のパース:小上がり(下部収納あり)と造作テーブルはアールを付けて柔らかな印象へ。
左下:間取り、いまのところ最終形。角はアールが良さそうと思います。
造作テーブル(食事スペース、飾り棚、書斎、化粧台としても使うことを想定)の奥には小さな坪庭を配置し、四季を感じられるモミジの植樹を想定。縁側テラスも小上がりと同じ床高さで想定。外で心地よく過ごす造作を設たいと思っています。
濡縁なので、曖昧の十型でいうところの「4_突出」を意識した空間を想定。
来客用の土間の奥には北鎌倉の家のような飾り棚(食器棚でもある)を設える形に。

造作テーブルのすぐ脇に紅葉が眺められる、小さくても四季の変化を感じられる豊かな空間を設える。
- 依頼者年齢:60代
- 計画ステータス:準備段階(予算計画・スケジュールなどを決める段階)
- 建築計画:土地購入+新築
- エリア:東京都23区
ざっと初期イメージはこのような感じになりました。
曖昧の十型の空間サンプルはこちらからご覧ください。

まだまだファーストインプレッションによる、初期段階のラフプランですが、今後詳細を詰めていくことによって、空間がはっきりしていくと思います。
ambitectでは不動産会社・工事会社への発注支援という形で「土地探し、物件探し、間取りづくりなど」をサポートするサービス(マドリズム)を提供しています。
是非お手伝いできることがあれば、ご依頼いただけますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
家づくりに必要なコト、ぜんぶ。
建築家が「ミニマルな暮らしのベースづくり」をサポートします。

