madorismの間取りをつくる建築家
原宏佑(はらこうすけ)
鎌倉市在住の建築家。

関東近辺で約3年の土地探しを経て、30代で北鎌倉に自邸を建築。家づくりを通して、物件探しに大ハマり、今でも鎌倉の物件情報に目がない。「鎌倉で次住むならここが一番だ!」を探し続けて、さすがに2軒目は自身では難しいので、誰かに実現してほしいと心から思い、間取りにストーリーを込めて日々作成している。

古都鎌倉で育まれた禅(ZEN)の文化を体感する家|鎌倉の山々、谷戸に対峙する”別荘とホテル”を兼ねた「数寄忘筌の家」

古都鎌倉で禅の文化が育まれ、日本的な武士文化の象徴とも言える「禅(ZEN)」は独自の進化を遂げ、無駄を削ぎ落とし、本当に大切なモノをいかに(密かに)魅せるかという美意識が生まれた。茶の文化とも通じる、ミニマルな数寄屋の空間を最小単位の住宅に落とし込みたい。谷戸の自然に対峙する数寄屋の空間「数寄忘筌の家」を構想してみました。依頼者にとっては、別荘とホテルを兼ねた新しい暮らしの拠点。

今回相談に来られた方の経緯としては、東京の都心のマンション、戸建てでは得ることが難しい空間体験であったり、特に「日本的なものを感じられるような空間で過ごしたい」という要望を強く持たれている印象でした。都内から1、2時間程度のアクセスの場所で別荘として建て、使わないときは貸出してホテルとして建物を運用。もし、ホテルとして収益が出れば、資金計画にも余裕が出るし、空いている時は別荘として自分も使えるのであれば、尚更良いとのことでしたので、主に投資物件の企画案として考えていきたいと思います。

相談内容(依頼背景など)

鎌倉だけでなく、逗子や葉山などの土地も見てきた。都内とは別にもうひとつ、別荘という建築ジャンルを考えた時に、別荘、ホテルを利用する側として考えた時にあまりにも山奥だと、アクセスが悪いため選択肢として難しい。
別荘地というと、軽井沢や山中湖などの別荘地も考えられるけど、やや遠い印象がある。実は昔山ノ内エリアにハイキングで来たことがあって、街の雰囲気がなんとなく好きだなという印象が残っている。また、海外や遠方から都内近郊の観光目的で訪れる時に、鎌倉から東京まで電車で1時間というのは、許容範囲だと思うし、鎌倉自体も観光スポットなので、「鎌倉の街で暮らすように少し長めに滞在したい」という層がターゲットになると思う。自分がアクセスしやすいのも理由だけど、両方のニーズが重なれば良いなと思っている。とはいえ、まずは自分の都合で住みたくて、あわよくば収益化できればいいなと思っている。
主にワーケーションや週末暮らしといった、非日常的な時間を過ごす中で、日本的なものが感じられる空間だと良いなと思っている。そこまで広さは求めていなくて、平屋でもいいと思っている。どこの土地が良いとかっていうのはまだ考えれてなくて、とりあえず建築イメージと予算感を掴んでいきたい。

今回の計画は、住宅ではなく別荘。そして、ホテルなどの収益目線で事業計画を立案するのに、どんな建築ができるのか検討中で、今まさに土地探しの段階。湘南エリアに興味をお持ちのようでしたが、特に場所が決まっているわけでもなく、ネットで情報を調べたりしているようでした。

そんな中で、弊社に興味を持っていただいたのは「この辺りは以前訪れたことがあり、北鎌倉から葛原岡神社そして大仏に至るハイキングコースを歩いた時に街並みが素敵な雰囲気だった」と記憶されているそうで、山ノ内というエリアに興味を持たれたとのこと。北鎌倉の家ミニマルな空間をご覧いただき、ぜひ同じモノを購入したい!?とお褒めのお言葉を頂き、設計者としてはこの上なく嬉しく思いました。

そして、建築イメージに関しては、「日本的な空間」とのご要望を頂きましたので、鎌倉ならではの禅の思想として、忘筌というキーワードを主として、僭越ながらラフプランを考えたいと思います。

今回は古都鎌倉で育まれた禅(ZEN)の文化を体感できるような、日本的な空間として数寄屋の空間性を谷戸の自然の中で味わう「数寄忘筌の家」を考えていきます。

土地条件は湘南エリアの土地(建蔽率40%だと、およそ48坪程度の敷地面積)で、一方向が谷戸などの自然に面していると尚良いですが、窓の開口は絞っているので、そこまで厳しい条件でなくても可。
計画建物は建築面積約19坪。延床面積約27坪。ほぼフラットな平屋ですが、一部2階建ての想定とします。

別荘の目線|「東京」と「鎌倉」を行き来する目的

別荘を所有するという目的。2拠点暮らしにおいて求めるものは何か?何に魅力があるのか?と問い、少し考えてみます。

まず大前提として、東京都心と鎌倉は対比的である。ビル群に囲まれた密集地帯、一方は山々の隙間を縫うような谷戸地帯。鎌倉というのは都市全体がまるで自然庭園のような環境であり、そこに建つ住宅というのは当然のことながら都市のコンテクストの影響を大きく受けます。

個人的には「東京と鎌倉の両方の良さを互いに補完し合うことで、豊かな暮らしが可能になるのでは?」と考えていて、情報量の多い東京でインプット。アウトプットは鎌倉で情報を整理し、自分とひた向き合い、考えをまとめる。

などといったことを、突き詰めていくと

東京は情報の森で、鎌倉は自己の森。

なのだとも思ったりもします。

そして、良い意味で”無”になれる場所をつくりたい。できるだけ無駄を削ぎ落としたミニマルな空間で過ごすというのが、禅の空間で可能になるのでは?と考えました。

ホテルの目線|鎌倉を訪れる目的

世界中の人が鎌倉を訪れる目的はなんだろうか?ホテル目線で家を考えた時に、訪れる人が鎌倉に求めることを理解し、家のコンセプトとしていきたい。

長谷大仏や鶴岡八幡宮といった社寺巡り、街散歩。海や山でのアクティビティ、時には夕暮れ時の景色を楽しんだり、富士山と海の絶景もある。また隠れ家的な有名レストランも多く、新進気鋭のシェフが訪れる人のお腹を満たしてくれる。東京にはない、雰囲気が味わえるのも鎌倉を訪れる理由のひとつかもしれない。

しかしながら、あえて何もしない、何も考えない。という極めて稀なリフレッシュの方法に一定のニーズがあることを都内の喧騒に身を置くと感じざるを得ない。経験的には、そんな何もない場所というのを、心のどこか探している気がしていて、ただ過ごすということにも焦点を当てていきたいとも考えます。そんな過ごし方の一例が座禅などの自分と向き合う体験にあるのかもしれません。

海、山のアクテビティが豊富

鎌倉といえば、マリンスポーツが盛んな場所で、サーフィンやヨットなどの海での趣味を満喫するのに事を欠きません。マリンスポーツであれば海は湘南エリアには数多くあり、場所ごとの違いが感じられるのも魅力です。

そしてなにより、鎌倉の山を登りに来たという方も実は多い。鎌倉は三方山に囲まれており、山の地形は今も昔も変わらず残ったままである。四季折々の山の景色の移り変わりを一目見ようと鎌倉ハイキングにハマる方もいるほど、実は色々なところから富士山と海が見えるスポットがあります。

鎌倉には禅寺が多く存在している

そして、忘れてはならないのが、鎌倉には建長寺、円覚寺などの禅寺が数多く存在しているということ。禅の文化に触れるために、鎌倉のお寺で坐禅を体験することも旅の目的の一つかもしれない。

そして、その体験の延長線上に空間を考えた時に、宿泊するホテルで日本的なものを感じられると、より深く禅の世界観を理解できるはずだと考えられます。それも単に和風ではなく、空間構成そのものが日本的なものである必要があると思います。

間取りのコンセプト|数寄忘筌の家

色々なアクティビティがある中で、鎌倉に求めるものとして、どこか隠れ家のような雰囲気があると思います。

派手で装飾的な別荘というよりは、簡素な設えや、素材を生かした和の雰囲気であったり、自然との調和といったことを重視したいと考えます。その中で数寄屋というと、禅語である「忘筌」という名を付けられた茶室があり、禅的な空間として再解釈し、現代住宅の間取りのコンセプトとして、空間に落とし込んでいきたいと思います。

忘筌は曖昧の十型において、「10_衝突」に分類され、外の空間を内包するような巧みな境界の操作が行われている事例です。

禅の空間とは|忘筌(大徳寺孤篷庵、小堀遠州作)

京都の大徳寺に孤篷庵という小堀遠州作の茶室があります。忘筌茶室では、その名の通り禅語の忘筌になぞらえて、目的の本質「意」が大切であり、茶室の主題である庭(意)への目線を建築的に隠し、それでもなお”庭”を心で捉えよ。といったような空間の作り方をしています。

庭に対して開口部を絞りながらも、本質を見失わないような豊かな空間性を享受する。これが大徳寺孤篷庵「忘筌」の設計意図の根底にあり、それが禅の空間の本質と考えられます。今回は鎌倉の谷戸の自然に対峙することで、禅というものを「現代の暮らし」の中で考えてみたいと思います。

学生時代の頃に大徳寺の塔頭は何度も訪れていましたし、孤篷庵の忘筌の特別拝観も参加したことがあり、あまりにも不思議で魅力的な空間だったので、何度も下から庭を覗き込んでしまった記憶があります。

なんで鎌倉なのに京都の茶室?ということに関しては、確かにその通りかもしれません。しかしながら、鎌倉において禅という思想が広まり、京都においてさらに発展していったという経緯があり、禅というものにおいて通じていると考えます。

間取り図

ここからは実際に間取り図を考えていきます。実際にお話をお伺いした内容や背景といったことを鑑みながら、このコンセプトならどんな間取り図ができるだろう?ということを考えながら手書きスケッチで空間イメージを膨らませていきます。

外に対して閉じた空間構成

土地の周辺環境:上側が道路で、下側に谷戸の自然が見え、両隣は民家がある想定。

今回の間取り:北鎌倉の家の水回りを基本形として、ミニマルな構成を考えていきます。(平面的には一回り大きい)

長手方向に借景(谷戸の自然)が見えるように。LDKの位置を庭側に配置し、縁側等により、内外の境界を操作していきたいと思います。外に対しては閉じた空間構成を追求していきます。

(ベッドの数がたくさんありますが、後々減ります)

庭との境界の関係について、パースで考えてみます。

庭に対して、縁側の空間がありながらも、一部ボックス席のようなくつろぎスペースを考えました。

外に対して、縁側でつながっていく空間、外に張り出した空間など、やや詰め込みすぎな印象です。

外壁が垂れ壁のように下りてきているため、窓の開口高さが絞られているところが特徴的です。ホール天井高は高いけれど、窓はあえて低い位置に設えます。

無駄を削ぎ落としていくプロセス

何度もパースでイメージを確認しながら無駄を削ぎ落としていきます。中央に位置していた、ボックス席を取り止めてみると、視界が広がってきました。内壁の障子戸についても位置を検討。

間取り図では、中央にアイランドキッチンとテーブルが横並びになり、大部分を占めてしまっています。無くなったリビングのようなくつろぎスペースをどこかに確保したいところです(ベッドを減らします)。

2階へと登る階段の位置が平面を左右に分割するような形になっています。踊り場にはデスク。そして2階にはベッドと書斎、収納を配置しています。

ダイニングキッチンが中心ではなく、何もない余白を中心に

禅の空間なのに、台所や食卓が中心の空間で過ごしていいのか?ふと、素朴な疑問に駆られ、あえて余白の空間を中心に据えられるように間取りを組み替えていきます。

左側:階段の位置を検討しています。縦でいいのか横が良いのか。デッキから延長するような形が良いのか。階段の奥にくつろぎスペースを設けるのか、それとも踊り場をくつろぎスペースとするのか。

右側:ダイニングキッチンを再構成していきます。ガラッと壁付キッチンに変更し、最終的にダイニングキッチンは北鎌倉の家の(こじんまりとした)サイズ感に落ち着いてきました。階段も方針を変更し、横向きに変わっていっています。水回りも色々と検討しましたが、元の形に戻りました。

断面構成(中段左側):1階ホールは天井高3.5m。ダイニングキッチンとくつろぎスペースは2.1m。2階も高いところで2.1mで低いところだと1.5m程度。建物高さは平屋より少し高く感じられますが、切妻屋根のため、それほど高さを感じないと思います。

上段右側(上段右側の2階):2階道路側は高さがないため収納でもと思いましたが、庭にするのも良いと思いました。

庭側の立面(下段右側):縁側は外壁が垂れ壁のように下がっており、庭への視線が絞られている。一方で、くつろぎスペースは天井高さいっぱいの窓とすることで対比的な構成を取っています。

道路側の立面(下段右側):特徴的なのは横連窓のようでいて、インナーバルコニーとなっており、坪庭のような扱い。

そして玄関部分が外に飛び出す感じなので、どのように設えようかなと考えたり、アプローチについても考えていきます。

アプローチなどは土地次第といった感じで考えており、駐車場の計画によっても変わりそうです。

今回は谷戸の反対側に道路という設定ですが、直角方向に道路というパターンだと、建物の脇を通っていくということも考えられます。

イメージパース・間取り

メインとなるホールのイメージは、何もない余白の空間。何もないからこそ、何にでもなれる空間。

天井高く、庭に対して開口部を絞り、重心低く内外を行き来する工夫。天井高を抑えたダイニングと奥のくつろぎスペース。そっと座り、ひとり座禅を組むも良いですし、テーブルを出して食事を振る舞うこともできます。シェフに出張調理を依頼すれば自宅レストランなんてこともできます。

DK:北鎌倉の家と同じく、造作棚(飾り棚)を設える。キッチンと横並びで棚を延長させていくことで、違い棚のような設えとしたい。

L(くつろぎスペース):シアタールームとして音響を整えた室、一部に畳スペースを設け、ベッドルームとして使用することもできる。

縁側等はホールの内側から縁側、土間縁、広縁(濡縁)で構成されている。

①縁側:室内のデッキ。外と連続しているが、ホールからは障子等で仕切られている(境界の設えは要検討)。

②土間縁:小さな囲炉裏のようなスペースのある、半屋外空間。庭の出入りに使用する裏玄関でもある。

縁側、土間縁なので、曖昧の十型でいうところの「10_衝突」を意識した空間を想定。

③広縁(濡縁):デッキの広いところ、屋根はなく、室内から延長している部分。

広縁なので、曖昧の十型でいうところの「6_延長
」を意識した空間を想定。

パースは「1階玄関、2階書斎、寝室(ライブラリー)」の順です。

玄関入ると、奥に庭が見える。天井高を抑えた空間から広がりのあるホールへ抜けていく。2階書斎は外に向かって天井高が低くなる勾配天井。デスク越しに奥の谷戸の緑が見える。

寝室はライブラリー(飾り棚やアートギャラリー)を通って、さらに奥にあります。外側には細長い坪庭が横一面に、外に対しては視線を絞り、落ち着いた雰囲気としたい。

CLIENT DATA
  • 依頼者年齢:50代
  • 計画ステータス:物件探し中(土地を探している段階)
  • 建築計画:別荘(土地購入+新築)
  • エリア:東京から1時間〜2時間程度

ざっと初期イメージはこのような感じになりました。

曖昧の十型の空間サンプルはこちらからご覧ください。

まだまだファーストインプレッションによる、初期段階のラフプランですが、今後詳細を詰めていくことによって、空間がはっきりしていくと思います。

ambitectでは不動産会社・工事会社への発注支援という形で「土地探し、物件探し、間取りづくりなど」をサポートするサービス(マドリズム)を提供しています。

是非お手伝いできることがあれば、ご依頼いただけますと幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。

家づくりに必要なコト、ぜんぶ。
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